糖尿病とは、
インスリン作用不足による代謝障害の程度が軽度であれば、症状では気付かれないことが多く、長期間放置されてしまうことがあります。血糖値が著しく高くなる代謝状態になると、口渇・多飲・多尿・体重減少がみられ、急性合併症として意識障害から昏睡にいたり、治療が行われない場合には死にいたることもあります。代謝障害が軽度でも、長期間その状態が続くと、網膜症・腎症・神経障害等の特徴的な合併症を発症するリスクが高くなります。
さらに、糖尿病では全身の動脈硬化症が促進され、心筋梗塞、脳梗塞、下肢の閉塞性動脈硬化症の原因となります。この他、細菌感染に対する抵抗力の低下、悪性腫瘍の合併、歯周疾患、骨折、認知機能障害リスク増大等、多面的な併発疾患の存在が指摘されています。
今回の記事では、糖尿病の治療方法について解説します。
糖尿病治療の目標
糖尿病の診断基準
一般社団法人 日本糖尿病学会「糖尿病診断ガイドライン2019」糖尿病診断の指針において、糖尿病の診断は
具体的には、以下の3種類の場合に、糖尿病の診断にいたります。
- ① 糖尿病型を2回確認する(1回は必ず血糖値で確認する)
- ② 糖尿病型(血糖値に限る)を1回確認+慢性高血糖症状の存在
- ③ 過去に「糖尿病」と診断された証拠がある
糖尿病型 | 血糖値 | 空腹時≧126mg/dL |
---|---|---|
ブドウ糖負荷試験2時間値≧200 mg/dL | ||
随時≧200 mg/dL | ||
HbA1c | ≧6.5% |
糖尿病の病型分類
また、糖尿病の分類は、様々な臨床的情報(家族歴、発症年齢と経過、身体的特徴、膵島関連自己抗体、ヒト血球抗原(HLA)、インスリン分泌能/インスリン抵抗性の程度、遺伝子検査など)を総合して判断します。
成因は大きく分けて、1型糖尿病、2型糖尿病、その他の機序・疾患による糖尿病、妊娠糖尿病の4つに分類されます。
1型糖尿病
主に自己免疫を基礎にした膵β細胞の破壊によりインスリンの欠乏が生じて発症します。HLAなどの遺伝因子にウイルス感染などの誘因・環境因子が加わって起こり、他の自己免疫性疾患を高率に合併します。典型的には若年者に急激に発症し、速やかにインスリン依存状態に陥ります。
2型糖尿病
糖尿病患者さんの多くを占める成因で、多因子遺伝が想定されています。インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に、過食・運動不足などの生活習慣、および、その結果としての肥満が環境因子として加わり発症します。糖負荷後の早期インスリン分泌低下が特徴ですが、病期がインスリン依存状態まで進行する場合は限られています。
糖尿病の基本的治療方針
2~3ヵ月程度続けても目標の血糖値を達成できない場合には、食事療法・運動療法に加えて薬物療法も開始します
食事療法について
糖尿病の予防には、肥満の是正を第一に考える必要性があります。そのためには、総エネルギーの適正化を中心とする生活習慣の是正が重要で、体重の減少に伴って糖尿病の発症リスクは低減します。
2型糖尿病における食事療法は、総エネルギー摂取量の適正化によって、インスリン分泌不全を補完し、肥満のある場合は解消して、インスリン作用からみた需要と供給のバランスをとることで、高血糖のみならず糖尿病の様々な病態を是正することを目的としています。
そのために、体重に見合う総エネルギー摂取量を設定します。
目標とする体重は患者さんの年齢や病態等によって異なるため、まずは治療開始時に患者さんごとに総エネルギー摂取量の目安を定めます。
その後は、患者さんの体重の推移や血糖コントロール状態等を踏まえて、適宜変更していきます。
総エネルギー摂取量の目安
≪目標体重の目安≫
総死亡が最も低いBMIは年齢によって異なります。
一定の幅があることを考慮して、以下の式から目標体重を算出します。
75歳以上の後期高齢者の方では、現体重に基づき、フレイル、ADL低下、合併症、体組成、身長の短縮、摂食状況、代謝状態の評価を踏まえて適宜判断が必要です。
年齢 | 65歳未満 | 65歳~74歳 | 75歳以上 |
---|---|---|---|
目標体重(kg)の目安 | [身長(m)]2×22 | [身長(m)]2×22~25 | [身長(m)]2×22~25 |
≪身体活動レベルと病態によるエネルギー係数≫
高齢の方のフレイル予防では、身体活動レベルより大きい係数を設定します。
逆に、肥満減量をはかる場合には、身体活動レベルより小さい係数を設定します。
いずれにおいても目標体重と現体重との間に大きな乖離がある場合、下記①~③を参考に柔軟に係数を設定します。
身体活動レベル | エネルギー係数(kcal/kg) |
---|---|
①軽い労作 :大部分が座位の静的活動 | 25~30 |
②普通の労作:座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む | 30~35 |
③重い労作 :力仕事、活発な運動習慣がある | 35~ |
運動療法について
運動療法も2型糖尿病の治療のひとつとして重要です。運動療法は、血糖コントロールを改善し、心血管疾患のリスク因子である肥満、内臓脂肪の蓄積、インスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧症、慢性炎症を改善します。また、QOLやうつ状態、認知機能障害の改善効果も示されています。
運動療法は、有酸素運動とレジスタンス運動に分けられます。有酸素運動は全身持久力の向上、レジスタンス運動には骨格筋量・筋肉増加が期待され、ともにインスリン抵抗性と血糖コントロール改善効果を有します。有酸素運動とレジスタンス運動の双方の運動を行えば、更に血糖コントロールの改善が期待されます。
実際には、各個人の体力レベル(持久力および筋肉)に加え、年齢、合併症、生活スタイルに併せて運動療法を導入していきます。
有酸素運動とは
酸素を使い、体内の糖質・脂質をエネルギー源とする、筋肉への負荷が比較的軽い運動のことです。負荷の比較的軽い(運動強度の小さい)運動は、筋肉を動かすエネルギーとして、血糖や脂肪が酸素と一緒に使われることから「有酸素運動」と呼ばれます。屋外で行うウォーキングやジョギング、プールで行う水泳やアクアウォーキング、室内で行うエアロビクスダンスやエアロバイクなどが該当します。
有酸素運動は、中強度で週に150分以上、週に3回以上、運動しない日が2日間以上続かないように行うことが推奨されています。
レジスタンス運動とは
筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動のことを「レジスタンス運動」と言います。スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操などが該当します。
レジスタンス運動は、一般的には、連続しない日程で週に2~3日程、上半身・下半身の筋肉を含んだ8~10種類の運動を行います。10~15回繰り返すことができる程度の負荷を1セット行う程度から開始して、その後、負荷を徐々に増加して8~12回繰り返す不可で1~3セット行うことを目標にします。
薬物療法について
十分な食事療法・運動療法を2~3ヵ月間行っても良好な血糖コントロールが得られない場合、血糖降下薬の適応となります。血糖降下薬の開始時期は、患者さんごとの病態、治療歴、血糖コントロール目標などを考慮して判断します。速やかな糖毒性の是正が必要と判断される場合には、早期からのインスリン療法も考慮します。
また、1型糖尿病を含むインスリン依存状態や急性代謝失調(糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態、乳酸アシドーシス)等、インスリン治療の絶対的適応がある場合には血糖降下薬による治療を行ってはならず、ただちにインスリン療法を開始しなくてはなりません。
血糖降下薬の選択
現在日本で使用可能な血糖降下薬は7系統に大別されます。
それぞれの薬物作用の特徴や副作用を考慮に入れながら、患者さんごとの病態に応じて適切な薬剤を選択します。
インスリン 分泌促進系 | スルホニル(SU)尿素薬 | 膵臓β細胞からのインスリン分泌促進 |
---|---|---|
即効型インスリン 分泌促進薬(グリニド薬) | 膵臓β細胞からのインスリン分泌促進 (SU剤より作用発現時間が速く、持続時間は短い) | |
DPP-4阻害薬 | 血糖値依存性のインスリン分泌促進・グルカゴン分泌抑制 (食後高血糖の改善) | |
インスリン 抵抗性改善系 | ビグアナイド薬 | 肝臓からのブドウ糖放出抑制 抹消組織のインスリン感受性促進 |
チアゾリジン薬 | 抹消組織でのインスリン感受性亢進 肝臓からのブドウ糖放出抑制 | |
糖吸収調節 排泄調節 | α-グルコシダーゼ阻害薬 | 小腸内での二糖類の分解阻害(糖質の吸収遅延) |
SGLT2阻害薬 | 近位尿細管でのブドウ糖再吸収阻害 (尿糖排泄促進による血糖低下作用) | |
注射製剤 (インスリン以外) | GLP-1受動体作動薬 | 血糖値依存性のインスリン分泌促進・グルカゴン分泌抑制 (空腹時および食後高血糖の改善) |
まとめ
当クリニックの外来診療では
お身体に不調や不安がありましたら、どんな症状でもお気軽にご来院ください。
参考文献
・一般社団法人日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2019
・厚生労働省生活習慣予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット