ご自身やご家族に糖尿病がある方は「人工透析」という言葉を聞くと、恐怖心や絶望感に襲われるかもしれません。
糖尿病は適切な管理と生活習慣の改善によって、人工透析に至るリスクを減らすことができます。
本記事では糖尿病が人工透析に繋がる原因、人工透析になる割合、人工透析を回避するためにできることについて詳しく解説していきます。
糖尿病が人工透析に繋がる原因
糖尿病が人工透析に繋がる原因は、高血糖が腎臓に深刻なダメージを与えることにあります。
糖尿病では、血液中のブドウ糖濃度が慢性的に高くなり、これが血管を傷つけてしまいます。
また、腎臓は血液をろ過して老廃物を排出する役割を担う、糸球体という重要な組織があります。
この糸球体に存在する毛細血管は、高血糖によってダメージを受け、機能が低下してしまいます。
高血糖が腎臓に与える影響
高血糖が腎臓に与える影響は以下の通りです。
- 糸球体への負担増加
高血糖により血液中の糖分が糸球体へ過剰に流れ込み、ろ過機能の負担が増加します。
- 血管の硬化
高血糖は血管を硬化させ、糸球体への血流を阻害します。
- 炎症の促進
高血糖は腎臓組織の炎症を促進し、組織の破壊を加速させます。
これらの複合的な作用により、糸球体は徐々に機能を失い、最終的には腎臓の機能が低下し、人工透析が必要となります。
人工透析に至るプロセス
糖尿病による腎臓への障害は、以下のような段階を経て進行します。
期 | 病期名 | 特徴 |
---|---|---|
第1期 | 腎症前期 | 「血糖値の上昇・腎臓の濾過機能が亢進」 |
第2期 | 早期腎症期 | 微量アルブミン尿の出現・早朝の尿検査で異常が見られ始める |
第3期 | 顕性腎症期 | タンパク尿の持続・血圧上昇・むくみの出現 |
第4期 | 腎不全期 | 腎機能の著しい低下・尿毒症症状の出現 |
第5期 | 透析療法期 | 人工透析の開始が必要 |
第1期〜第2期は軽度のため、原因の病気を治療し、生活習慣の改善を図ることが大切です。
第3期〜は腎機能が半分程低下している状態と言われており、自覚症状が現れ始めます。
この段階では病気の治療と食事改善に加えて、薬での治療を行います。
腎不全にならないために、ここでしっかりと治療をすることが必要です。
第4期〜は腎機能が3割未満まで低下した状態と言われており、この段階まできてしまうと腎機能の回復は難しいです。
現状維持に努め、人工透析の導入を遅らせるために、より食事療法や薬物治療が必要になります。
第5期〜は腎機能がほとんど機能していない「末期の腎不全」です。
人工透析や腎移植が必要になり、人工透析を行う場合は開始をすると一生涯続けて行かなければなりません。
糖尿病患者の人工透析の割合
糖尿病と人工透析の関係は、決して他人事ではありません。
糖尿病患者は、そうでない人に比べて人工透析になるリスクが非常に高いと言われています。
日本透析医学会によると、2021年末の施設調査結果による透析患者数は349,700人に達し、人口百万人あたりの患者数は2,786人となっています。
そのうち最も多い原因の疾患は糖尿病性腎症で39.6%です。
また、2021年の施設調査結果による透析導入患者数は40,511人であり、原因の疾患では糖尿病性腎症が最も多く40.2%でした。
上記から、透析患者や透析導入患者のうち約4割は糖尿病性腎症が原因であることがわかります。
それくらい、糖尿病患者が人工透析になる割合が高く、糖尿病を発症している方は決して軽視できない問題です。
人工透析のリスク別グループ
上記からも分かる通り、糖尿病患者はそうでない人に比べて、人工透析になるリスクが非常に高いと言われています。
糖尿病患者を人工透析のリスク別に3つのグループに分けると、以下のようになります。
あなたはどのグループに属しているでしょうか。
ご自身の状況を把握し、適切な治療に繋げましょう。
グループ | 分類 | 該当する方の特徴 |
---|---|---|
グループ1 | 高リスク群 | ・糖尿病発症から10年以上経過している方 ・HbA1c(ヘモグロビンA1c)値が7.0%以上 |
グループ2 | 中リスク群 | ・糖尿病発症から5年以上経過している方 ・HbA1c値が6.5%〜7.0% ・高血圧や脂質異常症などの合併症がある可能性がある方 ・腎機能が正常範囲内だが、わずかな低下が見られる方 |
グループ3 | 低リスク群 | ・糖尿病発症から5年未満の方 ・HbA1c値が6.5%未満 ・合併症が少なく、腎機能が正常な方 |
人工透析患者の余命
糖尿病性腎症が進行し、腎不全になった場合、人工透析を行うかどうかは患者さんの余命に大きな影響を与えます。
以下に、一般的な傾向を説明します。
ただし、これはあくまで一般的な情報であり、個々の患者さんの状態や他の健康要因によって異なることがあります。
人工透析をした場合
人工透析は腎臓の代替機能を果たし、血液から老廃物や余分な水分を取り除くことにより、患者さんの生命維持を可能にします。
透析治療を受けることで、多くの患者さんは長期的に生命を維持することが可能になり、透析を受けることで数年、さらには10年以上生存する人もいます。
しかし、透析治療は生活の質において制約を伴うため、負担が大きい治療となります。
人工透析をしなかった場合
腎不全の状態で透析を行わない場合、体内に老廃物や余分な水分が蓄積し、生命を維持することが困難になります。
この場合、合併症が悪化し、数週間から数ヶ月という短期間で生命が脅かされることになります。
安定した生活を送るためには、血糖値、血圧、そしてコレステロール値の適切な管理が、腎機能の維持に重要です。
定期的な医師の診察と検査を受け、適切な食事療法や運動を行うことで、腎機能低下の速度を遅らせることができます。
人工透析がもたらす負担や生活の変化
人工透析は、腎臓の働きを人工的に補う治療法です。
しかし、透析治療は患者さんにとって大きな負担となります。
さらに、体への負担が大きく、合併症のリスクも高まるという側面もあります。
例えば、透析による血管への負担、感染症のリスク、心血管疾患の発症リスクなどが挙げられます。
人工透析は、人生の質を大きく左右する深刻な問題です。
時間と体力
週に2~3回病院に通院し、4~5時間かけて透析を行う必要があります。
通院のための体力も必要であり、透析は体内の血液を体外へ循環する治療のため、ベッドに横になって治療を受けていても、エネルギーを多く消耗します。
透析後は疲れや倦怠感を覚えることや、血圧が下がった場合には体がだるく感じることがあります。
食事制限
透析治療の効率を維持し、心臓や血管への負担を軽減するため、塩分やカリウムなどの摂取量を制限する必要があります。
食事制限は、患者さんの食生活を大きく制限し、精神的なストレスも生じさせます。
また、栄養不足になりやすく、体力も低下しやすいです。
自由時間の制限
透析治療のスケジュールに合わせ、日常生活を調整する必要があり、旅行や趣味を楽しむ時間も制限される可能性があります。
旅行や出張に行く場合には、出先で透析ができる病院を探さなければなりません。
経済的負担
透析治療には高額な費用がかかります。
1ヶ月の透析治療代は、外来通院で行う透析の場合は約40万円程、腹膜透析(お腹に透析液を入れ、腹膜を使って透析を行う自宅でできる透析療法)の場合は30〜50万円程かかると言われています。
ただし、特定疾病療養受領証交付や自立支援医療、重度心身障害者医療費助成制度などを申請をすると、自己負担は0〜2万円が上限となる制度もあります。
詳しくはお住まいの保険者に確認をすると良いでしょう。
人工透析を回避するためにできること
糖尿病が人工透析につながるリスクは高いですが、適切な管理と生活習慣の改善によって、人工透析を回避することは十分に可能です。
人工透析を回避するためにできる具体的な対策は以下の通りです。
血糖コントロールの徹底
・食事療法
糖質制限食やバランスの取れた食事を心がけ、血糖値の上昇を抑えましょう。
・運動療法
適度な運動は、インスリンの感受性を高め、血糖値の改善に役立ちます。
・薬物療法
血糖値が目標値に達しない場合は、医師の指示に従ってインスリンなどの薬物療法を受けましょう。
・定期的な血糖値測定
自宅でも血糖値を定期的に測定し、血糖値の状態を把握しましょう。
腎臓を守るための対策
・高血圧の管理
高血圧は腎臓の機能を悪化させる要因の一つです。
・脂質異常症の管理
脂質異常症も腎臓に悪影響を与えます。
・蛋白尿の管理
尿中にタンパク質が出ている場合は、腎臓の機能が低下している可能性があります。
それぞれ医師の指示に従って、治療を行っていきましょう。
定期的な健康チェック
・医師による定期的な診察
糖尿病の経過や腎機能などを定期的にチェックしてもらいましょう。
・尿検査
尿検査で、早期に腎機能の低下を検知することができます。
・血液検査
血液検査で、HbA1c値や腎臓の機能指標などを測定できます。
自分の体に合った治療法を見つける
・専門医への相談
糖尿病専門医や腎臓専門医に相談し、適切な治療法を見つけましょう。
・生活習慣の改善
食事療法や運動療法など、自分のライフスタイルに合わせた生活習慣の改善に取り組みましょう。
諦めずに継続すること
・目標設定
人工透析を回避するという目標を立て、生活習慣の改善を継続しましょう。
・家族や友人のサポート
家族や友人にも協力を求め、励まし合いながら治療を続けていきましょう。
これらの対策を継続的に行うことで、人工透析に至るリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ
「自分の場合は、人工透析になる可能性はあるのか?」 「どんな治療法があるのか?」 「生活習慣をどのように改善すればいいのか?」
このような疑問や不安は、医師に相談することで解決できます。
糖尿病性腎症は深刻な合併症ですが、日々の生活習慣の見直しと適切な医療ケアにより、人工透析を防ぐことが可能です。
特に、早期発見と継続的な健康管理がとても重要になってきます。
糖尿病の管理においては、ご自身やご家族のサポートのみならず、医療専門家との連携が必要になります。
あなた自身、またはご家族が糖尿病に関連する症状がある場合、深刻な状態にならないためにも、早めの受診をおすすめします。
ご心配な方や治療を検討されている方は、当クリニックまでお気軽にご相談下さい。
Q&A
Q:人工透析患者の5年生存率はどのくらいですか?
A:人工透析患者の5年生存率は約60%と言われています。
透析治療を開始した後も、毎日の血糖コントロールや食事療法、血圧の管理を行うことで、10年〜20年生存可能というデータもあります。
人工透析導入前後も、血糖値や血圧、食事管理をすることが大切です。
Q:人工透析は一度開始すると生涯続けなければいけないですか?
A:慢性腎不全を発症した場合には、生涯続ける必要があります。
中には急性腎不全で腎機能が治療により回復する場合は、透析が不要になる場合もありますが、糖尿病により慢性腎不全を発症した場合は、腎機能の回復はなかなか期待できないのが現状です。
人工透析が必要になる前に、日々の食生活や血糖コントロールを行い、人工透析を回避することが大切です。
参考文献
第 2 章 2021 年慢性透析患者の動態
日本透析医学会
https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2021/pdf/02.pdf
透析患者の糖尿病治療ガイド2024
日本透析医学会
https://www.jsdt.or.jp/tools/file/download.cgi/3919/%E9%80%8F%E6%9E%90%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AE%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%892024%E6%A1%88.pdf
日本糖尿病学会編・著2018-2019糖尿病治療ガイド
https://www.jds.or.jp/uploads/fckeditor/files/uid000025_67756964655F323031382D323031392E706466.pdf