糖尿病は「沈黙の病気」とも呼ばれ、初期段階では自覚症状がほとんどないため、発見が遅れがちです。しかし放置すると、心臓や血管、目、腎臓などに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、糖尿病の概要から、初期症状、セルフチェック、そして進行を予防する具体的な方法まで詳しく解説します。早期発見・早期治療で、健康な未来を手に入れましょう。
糖尿病とは
糖尿病は、血液中の糖分が慢性的に高くなる代謝性疾患です。進行性の病気であり、放置すると心臓や血管、目、腎臓など全身に合併症を引き起こす可能性があります。
原因は大きく2つあり、インスリンの分泌量が不足している場合と、インスリンの作用が発揮できない場合があります。前者は1型糖尿病と呼ばれ、遺伝的要因やウイルス感染による膵臓β細胞の破壊が原因です(1)。後者は2型糖尿病で、生活習慣の乱れや加齢によるインスリンの分泌不全が原因で発症します(2)。
糖尿病の初期症状
糖尿病の初期症状は、以下の5つがあります。
・体重減少
・多飲と頻尿
・疲労感
・視力の低下
・傷の治りが遅延
詳しく解説します。
体重減少
糖尿病で体重が減少するのは、身体がエネルギーを効率的に利用できなくないためです。食生活が変わっていないのに体重が減る場合、糖尿病の可能性を考えるべきです。糖尿病では、体内の糖が細胞に取り込まれず、エネルギー源として脂肪や筋肉が代わりに消費されるため、体重が減少します。
多飲と頻尿
喉の渇きが止まらず、大量に水を飲むようになった場合は、糖尿病の可能性があります。糖尿病では、血糖値が高い状態が続くと、腎臓が余分な糖を尿として排出しようとするため、大量の尿が作られます。そのため、1日の排尿回数が起床から就寝まで8回以上、就寝中に2回以上の場合は頻尿とされます(3)。頻尿によって体内の水分が失われると、喉の渇きを強く感じてさらに水を飲むようになり、このサイクルが繰り返されるのです。
疲労感
常に身体がだるい、朝起きても疲れが取れない場合も注意が必要です。糖尿病では、血糖が体内で有効に使われず、エネルギー不足が生じます。そのため、日常的に疲労感が続くことがあります。
さらに、この疲労感は日常生活の質を大きく下げる原因にもなります。仕事や家庭生活でストレスを感じることが多い40代男性にとって、見過ごしやすい症状ですが、体の異変を見逃さないようにしましょう。
視力の低下
糖尿病では、網膜の血管障害が原因で視力が低下する可能性があります。なぜなら、血糖値の変動により目の水分バランスが乱れ、血流障害、血液成分の漏出、血管壁細胞の変性がおこるためです。
初期段階では無症状の場合が多いですが、進行すると視界がぼやける、視野の一部が欠ける、突然の視力低下などの症状が現れます。糖尿病の罹患期間が長いほど重症度は上がるため、早期発見・早期治療が大切です(4)。
傷の治りが遅延
小さな切り傷や擦り傷が治りにくいのも、糖尿病の初期症状のひとつです。傷の治りにくさには複数の要因が絡んでおり、血流の悪化、免疫力の低下、末梢神経障害などがあります。上記の要因により、傷害部位に酸素や栄養素、免疫細胞を届けにくくなるため傷の治りが遅延しやすいです。
【10項目】糖尿病のセルフチェック
糖尿病は自覚症状がない場合が多く、初期段階では発見しづらいです。そのため、家族歴や生活習慣の中からリスク要因を見つけ、進行を予防しましょう。具体的なチェック項目は以下の通りです。
□家族や親戚に糖尿病の人がいる
□体重が急に減少、または太った
□飲酒や喫煙の頻度が高い
□のどが渇きやすくトイレの回数が多い
□視力が低下している
□脂質や塩分が多い食事が好き
□手足のしびれや痛みがある
□傷が治りにくい
□運動習慣がほとんどない
□疲れやすく身体がだるい
上記の項目に当てはまるほど糖尿病のリスクがあります。当てはまるようであれば当クリニックまでお気軽にご相談ください。
糖尿病になりやすい人の特徴
糖尿病になりやすい人の特徴は、大きく3つに分けられます。
☑家族に糖尿病の人がいる
☑生活習慣の乱れ
☑喫煙や過度の飲酒
詳しく解説します。
家族に糖尿病の人がいる
1型糖尿病は遺伝的要因が関わるものの、両親が1型糖尿病の場合、子供が発症するリスクは3%〜5%と低いです。
一方、2型糖尿病では、家族に糖尿病患者がいる場合があります。2型糖尿病の家族歴の保有率は約30%と比較的高いです(5)。親や兄弟が糖尿病の場合、自身も糖尿病を発症する確率が通常より2〜3倍に増えます。そのため、家系に糖尿病患者がいる場合は、遺伝リスクを認識しつつ、生活習慣の改善に努めるのが重要です。
生活習慣の乱れ
不規則な食事や運動不足、睡眠不足は、糖尿病を引き起こしやすい要因です。食事内容の偏りは脂質摂取量の増加と関連しており、血糖コントロール不良につながります(6)。また、動物性たんぱく質の過剰摂取は、インスリン抵抗性を引き起こす要因になります。
また、デスクワークが中心で座りがちな生活になっていると糖尿病のリスクにつながります。運動不足は、インスリン抵抗性につながり糖を利用しづらくなります。そのため、定期的な有酸素運動で筋肉が糖を取り込みやすくするのが大切です。
喫煙や過度の飲酒
喫煙者は非喫煙者に比べて糖尿病の発症率が1.91倍高いです(7)。禁煙すると糖尿病のリスクは徐々に低下し、長期的には非喫煙者と同等のリスクレベルに戻ることが示されています。また、喫煙は心血管疾患リスクの増加につながり、全死亡率を高めます。
過度の飲酒も糖尿病のリスクを増加させます。過度のアルコール摂取は膵臓障害を引き起こし、インスリンの分泌を低下させるためです(8)。また、アルコールによる肝臓のグリコーゲン文化、アドレナリン分泌更新なども影響します。しかし、1日1杯程度であれば逆に糖尿病の発症リスクが低下するため、少量に押さえるのが大切です(9)。
糖尿病の進行を予防するには
糖尿病の進行を予防するには、以下の3つを実践しましょう。
☑食事習慣を見直す
☑有酸素運動を実施する
☑禁煙と禁酒を行う
詳しく解説します。
食事習慣を見直す
糖尿病の進行を予防するには、血糖値の急激な変動を防ぐ食事が重要です。1回の食事量を適度に抑え、炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂取するのを心がけましょう。
特に、食物繊維を豊富に含む野菜や全粒穀物は血糖値の上昇を抑える効果があり、インスリン感受性を改善します。加工食品や甘い飲み物は血糖値を急激に上げるため、控えることが推奨されます。
また、食事の食べ方も大切です。食事で野菜を先に食べると血糖値の上昇が抑制されます(10)。血糖値上昇の抑制は、タンパク質が多い食品でも同様の効果が期待できます。
有酸素運動を実施する
有酸素運動は糖尿病の予防や進行抑制に効果的です。運動によりブドウ糖の取り込みを改善し、血糖値を下げます(11)。特にウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの軽度から中度の有酸素運動は、無理なく続けられる点でおすすめです。1週間に150分以上、少なくとも週に3日以上行うようにしましょう。運動を習慣化するためには、無理のない範囲で楽しめる運動を選ぶのが大切です。
禁煙と禁酒を行う
禁煙は、インスリン抵抗性の改善、酸化ストレスの抑制、代謝の改善により糖尿病を予防します。喫煙後には体重が増加する場合がありますが、体重が5kg以上増加しても、虚血性心疾患、脳卒中のリスクが喫煙を続けた場合に比べて3割減少します(12)。そのため、できるだけ早く禁煙しておくことが大切です。
一方、過剰な飲酒も血糖値の変動を招くため、適量の飲酒が良いです。1日10g以上30未満のアルコール摂取を継続すると糖尿病リスクを軽減できる可能性があります。1日50g以上摂取すると糖尿病発症リスクが増加します。
よくある質問
糖尿病の初期症状と他の病気はどのように区別できる?
糖尿病の初期症状は他の病気とも似ている場合があります。他の病気との区別には、血液検査や尿検査が必要です。例えば、腎疾患や甲状腺疾患も頻尿や倦怠感を引き起こしますが、糖尿病では血糖値の異常や尿糖が見られます。
糖尿病は初期段階なら治せる?
初期段階であれば、2型糖尿病で生活習慣の改善によって寛解が期待できます。食事療法や運動療法により血糖値を正常範囲に維持できれば、薬の使用を減らすことが可能です。ただし、1型糖尿病は自己免疫疾患のため、インスリンが必要であり治癒は困難です。
まとめ:糖尿病の初期症状を知り、進行を予防しましょう
糖尿病は、血糖値が慢性的に高くなる代謝性疾患で、放置すると全身に合併症を引き起こす可能性があります。生活習慣や加齢が主な原因で発症する疾患です。初期症状には、体重減少、多飲・頻尿、疲労感、視力低下、傷の治りが遅れるなどがありますが、無症状の場合も多いため、セルフチェックや家族歴の確認が大切です。
糖尿病になりやすい要因として、不規則な生活習慣、喫煙、過度な飲酒が挙げられます。進行を予防するには、バランスの良い食事、有酸素運動、禁煙・適度な飲酒が効果的です。
チェックリストに当てはまる方、血糖値に不安がある方は、当クリニックまでお気軽にご相談ください。
【参考文献】
1型糖尿病の病態と治療の最前線
日本人2型糖尿病の病態と治療
内科医が知っておくべき泌尿器科疾患(頻尿編)
糖尿病網膜症とリハビリテーション医療
糖尿病の家族歴と耐糖能異常,肥満との関連
2型糖尿病患者における食行動の偏りと栄養素摂取量および食品群別摂取量との関連
禁煙の行動科学
飲酒は糖尿病発症にどのような影響を与えるのか
アルコールと循環器疾患に関する最近の研究成果
糖尿病における栄養食事療法
糖尿病の運動療法―有酸素運動かレジスタンス運動か
喫煙と糖尿病|厚生労働省