日本人は世界的に見ても睡眠時間が短い傾向にあり「ここ1ヵ月間、睡眠で休養が充分にとれていない」と感じる人の割合は20%に上ります。つまり、国民の5人に1人が睡眠に関する悩みを抱えている計算です。特に不眠症は、眠れない夜が続くことで日中の集中力や気力の低下を引き起こし、生活の質を大きく損なう深刻な問題です。
本記事では、不眠症の原因や症状を詳しく解説し、自力で改善するための具体的な方法を紹介します。適切なセルフケアや生活習慣の見直しを通じて、質の高い睡眠を取り戻しましょう。
不眠症は自力で治せる?
不眠症の原因は、精神的要因や身体的要因など多岐にわたり、単に生活習慣だけで解決できないケースは少ないです。一方で、生活習慣を見直すことで改善が期待できるタイプもあります。
例えば、日中の活動量が不足していると夜に眠気を感じにくくなるため、適度な運動を取り入れることが重要です。また、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用は、ブルーライトが睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を妨げるため、避けましょう。毎日同じ時間に就寝・起床する規則正しい生活リズムを保つことも、不眠症の改善に有効です。
カフェインやアルコールの摂取も睡眠に影響を与えるため、控えるのがおすすめです。このような生活習慣の調整により、軽度の不眠症や一過性の不眠症であれば自力で症状を改善することができるでしょう。
不眠症の原因
不眠症の発症には、いくつかの要因が関わっています。
心理的要因
身体的要因
環境要因
薬剤要因
それぞれ詳しく解説します。
心理的要因
不眠症の主な原因の一つは心理的要因です。日常生活の中で生じるストレス、仕事や家庭での悩み、人間関係のトラブルなどが心を不安定にさせ、眠りを妨げます。また、うつ病や不安障害などの精神疾患も、不眠を引き起こす大きな要因です。
これらの疾患は心の状態を乱し、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めてしまったりすることがあります。さらに、就寝前に過度に考え込む習慣や、心配事を抱え込む傾向も不眠を助長します。
心理的要因による不眠は放置すると慢性化する可能性があるため、早めの対処が重要です。
身体的要因
身体的要因も不眠症の発症に関わります。例えば、慢性的な基礎疾患(糖尿病、高血圧、心疾患など)は、痛みや体調不良を伴うため、睡眠の質を低下させます。また、加齢によりメラトニンや成長ホルモンの分泌が減少することも、不眠の一因です。
女性の場合、妊娠や更年期などホルモンバランスの変化が睡眠に影響を与えることがあります。睡眠時無呼吸症候群のような特定の疾患では、夜間に呼吸が停止し頻繁に目覚めるため、深い睡眠が得られません。
これらの身体的要因に対する治療は、不眠症の改善につながります。
環境要因
睡眠環境も不眠症の発症に大きな影響を与えます。例えば、外部から聞こえる騒音や部屋に差し込む光、寝室の温度や湿度の不快感などが、入眠を妨げたり、途中で目覚めたりする原因となります。
また、不適切な寝具の使用や、睡眠パターンが乱れる生活習慣も睡眠の質を下げる要因です。特に、就寝前にスマートフォンやパソコンなどのデバイスを使用することで発せられるブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、眠気を妨げます。
薬剤要因
薬剤の副作用も不眠症の原因です。例えば、ステロイドや降圧薬、一部の抗うつ薬などは、不眠を引き起こす副作用があります。また、カフェインを含む薬剤や、喘息治療薬なども寝つきを悪くする原因です。
さらに、薬剤を長期間使用している場合、薬物依存や離脱症状によって睡眠に影響を及ぼすことがあります。そのため、必要に応じて減量や中止を検討することが大切です。
不眠症の症状
不眠症には、いくつかのタイプがあり、それぞれ特徴が異なります。詳しくは以下の通りです(1)。
入眠困難 | 寝つきが悪く、布団に入ってもなかなか眠れない状態。 |
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睡眠維持困難 | 夜中に何度も目が覚めてしまい、深い眠りが続かない。 |
早朝覚醒 | 予定よりも早く目が覚めてしまい、再度眠ることが難しい。 |
熟眠障害 | 睡眠時間を確保しても、睡眠の質が悪いために疲労感が取れない状態。 |
これらの睡眠障害が引き起こす二次的な症状として、日中の倦怠感や集中力・記憶力の低下、意欲の低下、頭痛などが挙げられます。不眠症が続くと、仕事や学校生活に支障をきたすこともあり、場合によっては人間関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。睡眠不足は心身のストレスが蓄積するため、早めの対策が重要です。
不眠症を自力で治す方法
不眠症を治すためには、以下の3つに気を付ける必要があります。
- 睡眠リズムを整える
- 睡眠環境を整える
- 食事習慣に気を付ける
それぞれ詳しく解説します。
睡眠リズムを整える
不眠症を自力で改善するには、生活習慣を見直し、睡眠リズムを整えるのが重要です。毎日同じ時間に起床・就寝することで、体内時計を整えることができます。また、日光はセロトニンの分泌を促し、夜間のメラトニン生成を助けるため、朝に太陽の光を浴びるのが大切です。
メラトニンはトリプトファンからセロトニンを経て松果体で合成されるホルモンです。夜間に高く、昼間に低い傾向にあります(2)。
メラトニンは、夜間に光に当たると分泌が抑制されるため、寝る前のスマホやテレビの見過ぎは体内時計の乱れにつながります
睡眠環境を整える
快適な睡眠には、環境を整えることが欠かせません。騒音や室内の温度、部屋の明るさなどが不眠症のリスクを高めます(3)。対策としては、耳栓の使用、防音カーテンの設置などが効果的です。
夜間の強い光やブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制するため、寝る前の1〜2時間は電子機器の使用を控えることが効果的です。
また、寝具の快適さを追求するのもポイントです。枕やマットレスは体に合ったものを選び、季節に応じた寝具を使用することで睡眠の質を向上させられます。
さらに、快適な室温(約18〜22℃)と適切な湿度(40〜60%)は、深い睡眠を促進します。
食事習慣に気を付ける
食事も睡眠の質に大きな影響を与えます。寝る前のカフェインやアルコールの摂取は避けるべきです。カフェインは覚醒作用があるため、寝つきが悪くなってしまいます。
また、アルコールは一見眠りを助けるように思われますが、睡眠の質を低下させる原因です。
一方で、トリプトファンを多く含む食品を摂取することは睡眠に効果的です。トリプトファンはセロトニンの原料になるため、睡眠リズムをサポートします。
例えば、バナナや乳製品、ナッツ類、鶏肉は、メラトニンの生成をサポートするため、寝る前の軽食として最適です。
よくある質問
以下では、不眠症に関してよくある疑問に答えていきます。不眠症で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
Q.不眠症が突然治ることはある?
不眠症が突然治るケースはまれですが、環境やストレス要因が劇的に変化した場合、症状が軽減または消失する可能性があります。例えば、長期間ストレスにさらされていた人が原因から解放された場合、自然に眠れるようになることもあります。ただし、多くの場合、不眠症は慢性的であるため、突然の回復は期待しすぎないほうが良いです。
Q.不眠症の治療方法とは?
医療機関での不眠症の治療では、薬物療法や認知行動療法などが用いられます。薬物療法は、短期間の使用で効果を発揮しやすいですが、依存性や副作用のリスクを考慮する必要があります。一方、認知行動療法は、心理的要因が考えられる人に実施し、睡眠の質を改善するための長期的な効果が期待できます。
生活習慣の改善で不眠症の症状を軽減しましょう
不眠症は、心理的要因や身体的要因、環境要因など多くの原因で発症します。例えば、ストレスや不安、慢性的な病気、騒音や光などの環境の影響が睡眠を妨げることがあります。また、就寝前のスマートフォン使用やカフェイン摂取も不眠の一因です。
自分でできる方法として、毎日同じ時間に起床し、規則正しい生活リズムを維持すること、適度な運動を取り入れること、寝室を快適に保つことが効果的です。
さらに、トリプトファンを多く含む食事やブルーライトを避けるのも良いでしょう。
慢性的な不眠の場合は、医療機関での治療が必要なこともありますが、早期の対策で生活の質を向上させることが可能です。
生活習慣など、自分で出来る方法だけでは治らないなどの悩みがある方は当クリニックへお気軽にご相談ください。
【参考文献】
日大医学雑誌2020年79巻6号p.337-340『不眠の鑑別診断とその進め方』
・URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/47/9/47_KJ00004675968/_pdf/-char/ja
心臓/43巻(2011)2号p.154-158前村 浩二著『生体リズムの乱れを調整する3要素(光、食事、メラトニン)』
・URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/43/2/43_154/_article/-char/ja/
2006年第47回日本心身医学会総会 端詰勝敬/菅 重博/林 果林/佐藤朝子/久松 由華/坪井康次『環境と睡眠障害』
・URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/47/9/47_KJ00004675968/_pdf/-char/ja