ストレスが原因で喘息を発症することがあるのをご存じでしょうか。仕事や家庭、人間関係のプレッシャーなど、日常的なストレスが気道の過敏性を高め、喘息を引き起こす場合があります。
本記事では、ストレスがどのように喘息に影響を与えるのかを解説するとともに、適切な診断方法や治療法について詳しく紹介します。ストレスと喘息の関係を理解し、より健康的な生活を送るためのヒントを見つけましょう。
ストレスと喘息の関係
ストレスと喘息の関係について「ストレスが原因で喘息が発症する」「ストレスで喘息が悪化する」の2つについて解説していきます。
ストレスが原因で喘息が発症する
ストレスは喘息を発症させる要因の一つです。特に、精神的ストレスにさらされると、体内で炎症性物質(好酸球やIL-5)が増加し、気道の過敏性が亢進します(1)。これにより、気道の炎症が誘発され、喘息が発症するリスクが高まります。
例えば、生活環境の変化や仕事のプレッシャー、人間関係のトラブルといったストレスフルな状況は、喘息発症・増悪の要因です。このようなストレスを適切に緩和することは、喘息の予防においても重要なポイントです。
ストレスで喘息が悪化する
すでに喘息を患っている場合、ストレスが症状を悪化させることも少なくありません。また、ストレスが続くことで免疫力が低下し、感染症への抵抗力が弱まり、喘息の発作が頻発する可能性もあります。
ストレスがきっかけで不安障害やうつ病といった精神的な問題を併発するケースも多く、これが喘息治療を難しくする要因の一つです(2)。心理的なストレスを緩和するだけでなく、アレルギーや感染症といった他の喘息悪化因子を同時に管理することで、症状のコントロールが可能です。
ストレスによる喘息の特徴
喘息では、抑うつや不安など精神症状を伴う場合があります(2)。これらの心理的ストレスは、気道の炎症をさらに強め、咳や息苦しさ、喘鳴(ゼーゼーとした呼吸音)の頻度を増加させる原因です。
喘息患者が抱えるストレスは、日常生活や社会活動にも影響を及ぼします。例えば、夜間に発作が起きることで十分な睡眠が取れず、疲労感が増加するなどです。また、職場や家庭でのプレッシャーが発作を誘発し、症状を慢性化させるリスクもあります。
ストレスによる喘息の診断方法
ストレスによる喘息の診断は、以下の4つを基に行います。
臨床症状
ストレス要因の特定
既往歴や家族歴
呼吸機能に関連した検査
詳しく解説します。
臨床症状
ストレスによる喘息は、他の喘息と同様に発作性の呼吸困難や喘鳴などの症状が現れます。ストレスを感じた直後や心理的負担が大きい状況下で症状が誘発されるのが特徴です。これらの症状は夜間や早朝に悪化することが多く、睡眠を妨げる場合もあります。症状を繰り返し発症している場合、ストレスが喘息に影響を与えている可能性が高いため、早期の診断が重要です。
ストレス要因の特定
ストレスによる喘息を診断する上で、どのようなストレス要因にさらされているかを特定することが不可欠です。心理テストや問診などを通じて、仕事のストレス、人間関係の問題、家庭環境の変化など、症状の引き金となる可能性のある要因を洗い出します。これらの評価をもとに、心理的ストレスが直接的に症状の悪化に関与しているかどうかを判断します。ストレス要因の特定は、症状の軽減に大切です。
既往歴や家族歴
診断の際には、患者の既往歴や家族歴の確認も重要です。小児喘息やアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などの既往がある場合、喘息発作のリスクが高まる可能性があります。また、家族に喘息やアレルギー体質の人がいる場合、遺伝的な要因が関与している可能性も考えられます。特に、アレルギー体質と心理的要因が重なる場合、診断を正確に行うことが治療の鍵です。
呼吸機能に関連した検査
呼吸機能検査は、ストレスによる喘息の診断を裏付ける検査です。スパイロメトリーを用いて気道の狭窄や肺活量の異常を測定し、喘息特有の可逆性気道狭窄があるか確認します。また、呼気中の一酸化窒素を測定する検査は、気道の炎症レベルを評価するのに有用です。
このように気道過敏性の検査を実施し、患者の気道がどの程度刺激に対して反応しやすいかを検査します。定期的な検査により、治療の効果や進行状況のモニタリングも可能です。
ストレスによる喘息の治療方法
ストレスによる喘息に対しては、以下の3つの治療を行います。
薬物療法
心理療法
生活習慣の改善
詳しく解説します。
薬物療法
ストレスが原因で喘息を発症している場合、心理的な負担を軽減する薬物療法が有効です。抗うつ薬や抗不安薬は、精神的なストレスを和らげる役割を果たします。一方、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は高用量では呼吸が抑制されるリスクがあるため、呼吸機能が低下している喘息患者には適さない場合があります(2)。
一方で、喘息そのものに対する治療も重要です。吸入ステロイド薬や短時間作用型β2刺激薬などを併用することで、気道の炎症を抑え、呼吸を楽にします。
心理療法
ストレスが原因の喘息に対しては、心理療法が効果的です。代表的なもので以下の3つがあります(2)。
自律訓練法 | 心身のリラックスを促し、副交感神経を活性化することで喘息の症状を軽減します。 |
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認知行動療法 | ストレスや不安を引き起こす思考パターンを修正することで、精神的な負担を和らげる治療法です。 |
バイオフィードバック療法 | 自分の呼吸や心拍数をモニタリングし、身体反応をコントロールする能力を高めることで、発作の頻度や重症度を軽減する効果が期待されます。 |
上記のような心理療法を用いて、ストレスを軽減します。
生活習慣の改善
日常生活におけるストレス管理と喘息を悪化させる要因の回避が大切です。例えば、激しい運動や喫煙などは喘息症状を悪化させるため、これらを避けることが推奨されます。また、十分な睡眠や栄養バランスの取れた食事を心がけることで、ストレスへの耐性が向上します。自身の喘息が起きやすい状況を把握することで、リスクを未然に防ぐことが可能です。
よくある質問
以下では、ストレスと喘息についての疑問に答えていきます。
子供でもストレスが原因で喘息を発症する場合はある?
子供でもストレスが原因で喘息を発症する可能性があります。喘息は、気道の炎症や過敏性亢進による呼吸器疾患ですが、心理的なストレスが喘息症状を誘発することがあります。例えば、学校でのプレッシャー、人間関係の問題、家庭環境の変化などが原因です。
喘息でやってはいけないことは?
喫煙は気道を刺激し、喘息の症状を悪化させるため避けましょう。また、冷たい空気を急に吸い込むことや、激しい運動も発作を誘発する可能性があるため注意が必要です。
仕事や学校のストレスで喘息を発症したらどうすればいい?
仕事や学校のストレスで喘息を発症した場合、ストレスの原因を特定し、それに対処することが重要です。喘息発作が起きた場合は、気管支拡張薬の吸入で症状をコントロールしましょう。
喘息は市販薬で改善する?
喘息は市販薬で一時的に症状を緩和することは可能ですが、長期的な症状コントロールには診断と処方薬が大切です。市販薬で症状を抑えようとすると、適切な治療が遅れ、喘息が悪化する可能性があります。そのため、市販薬は医療機関を受診するまでの間に症状を緩和したい場合、吸入薬を切らしてしまった場合の緊急対応など限られた場面でのみ使用しましょう。
ストレス管理で喘息の症状を軽減しましょう
ストレスは喘息の発症や悪化に大きく影響します。精神的ストレスにより炎症性物質が増加し、気道の過敏性が高まることで発症リスクが上がります。
生活環境の変化や仕事のプレッシャーなどが引き金となるため、ストレスコントロールは大切です。
喘息患者の場合、ストレスが症状を悪化させるだけでなく、免疫力低下による感染症の発生リスクも増加します。治療法は吸入薬や抗うつ薬の使用、認知行動療法や自律訓練法などの心理療法、適切な生活習慣の改善が効果的です。
ストレス管理を徹底し、喘息の症状をコントロールしましょう。喘息の症状でお悩みの方は、当クリニックまでお気軽にご相談下さい。
【参考文献】
1.順天堂医学.2010,56,P.529〜536 熱田 了『ストレスと呼吸器疾患』
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/56/6/56_529/_pdf
2.アレルギー,67(9),1269-1272,2018 村松 芳幸, 小屋 俊之, 長谷川 隆志, 真島 一郎, 鈴木 栄一, 菊地 利明『喘息と精神・ストレス』
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/67/9/67_1269/_pdf/-char/ja