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鉄欠乏性貧血の診断について

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鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia;IDA)は、日常診療において最も頻度が高い貧血です。
日本では、食生活が豊かになった現代でも、鉄摂取量の減少によって、患者数は減るどころか増加傾向にあります。鉄欠乏性貧血は、その名称から一見単純そうな貧血にみえますが、さまざまな病態を背景に持っていることもあり、検査データを正確に判断して的確に診断を行い、背景の基礎疾患も考慮して、鉄欠乏性貧血の再発予防を図ることが重要です。
 

鉄欠乏性貧血とは

貧血とは、赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)が基準値以下に低下した状態を言います。
WHOの基準では、男性13g/dL未満、女性12g/dL未満と定義されています。
鉄欠乏性貧血とは、貧血のうち、鉄の需要量または喪失量が供給量を超えたときに生じる貧血を指します。体内における鉄需要量の増加、鉄供給量の低下、鉄の喪失が原因で、これらの原因のうちいずれかが生じたとき、あるいは、複数の原因が重なって生じたとき、鉄欠乏状態となり、貧血が発症します。

鉄の需要量・喪失量が供給量を超える原因

  • ① 鉄需要の増加 … 成長、妊娠
  • ② 鉄供給の低下 … 鉄の摂取不足、鉄の吸収不良
  • ③ 鉄の喪失   … 月経、消化器・婦人科疾患に伴う出血

 

鉄欠乏性貧血の症状

貧血の自覚症状として、動機、息切れ、倦怠感、易疲労感などが一般的です。しかし、鉄欠乏性貧血が緩やかに進行した場合、慢性的な貧血状態に体が順応してしまうことで、自覚症状が現れない症例も多くみられます。
他覚的な症状としては、皮膚、粘膜症状が多く、顔面・眼瞼結膜の蒼白、舌炎、咽頭炎、爪の変形や脆弱化などがあります。典型的な爪の変形は匙状爪(spoon nail)とよばれ、爪の甲が反り返った状態になります。舌炎や咽頭炎はひどくなると異物感や嚥下困難を伴います。また、氷をかじるという特徴的な食行為の異常がみられることもあります。

 
 

鉄欠乏性貧血の検査と診断について

貧血は、赤血球に含まれるヘモグロビン(Hb)が基準値以下(男性13g/dL未満、女性12g/dL未満)に低下した状態です。貧血の成因は様々ですが、このうち、ヘモグロビン合成に必須の鉄が不足することに起因する貧血を鉄欠乏性貧血と診断します。鉄欠乏性貧血の診断には、ヘモグロビン値だけでなく、生体内の鉄動態の把握が重要となります。
貧血診断の指標として、まずは、ヘモグロビン、赤血球指数を測定します。貯蔵鉄欠乏の診断指標としては、血清フェリチンが最も重要です。血清フェリチンに次いで、総鉄結合能(total iron binding capacity;TIBC)は特異性が高く、補助診断指標となります。いずれも採血を行うことで測定できる検査項目です。
 

血液学的検査(ヘモグロビン・赤血球指数)

まずは貧血の程度を確認する必要があります。
ヘモグロビン値で判断するのが一般的で、前述した通り、ヘモグロビンの基準値は、男性13g/dL以上、女性12g/dL以上です。また、赤血球指標である平均赤血球容積(mean corpuscular volume;MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(mean corpuscular hemoglobin;MCH)、平均赤血球血色素濃度(mean corpuscular hemoglobin concentration: MCHC)は、貧血が小球性・正球性・大球性か、低色素性・正色素性・高色素性かの判別に用いられ、鑑別診断を行う上で有用です。鉄欠乏性貧血は、一般的に小球性低色素性貧血を呈しますが、大球性貧血の代表であるビタミンB12欠乏や肝障害が併存する場合、相殺されて小球性を呈さない事もあるため、注意を要します。
 

血清フェリチン

フェリチンは鉄を格納する高分子の蛋白で、ヘモジデリンと共に、体内における鉄貯蔵蛋白として知られています。鉄を中心にして外郭をアポフェリチンが取り囲む構造で、ほぼ全身の組織に存在し、肝臓や骨髄のマクロファージのフェリチンはヘモグロビン合成に関与しています。
血清中に存在する血清フェリチンは、貯蔵鉄量を反映しており、鉄欠乏の早い段階から減少しています。血清フェリチンの基準値には男女差があるものの、10~12ng/ml以下であれば、鉄欠乏状態であると判断できます。ただし、発熱や感染症を伴うときは、血清フェリチンが異常高値となり、貯蔵鉄量を反映しないことがあるため注意が必要です。特に、高齢の患者さんにおいては、軽微な炎症が長期間継続することによりフェリチン値の上昇がもたらされるといわれており、45ng/ml以下で鉄欠乏状態の可能性を考える必要があります。
 

血清鉄・総鉄結合能(TIBC)・不飽和鉄結合能(UIBC)

生体内には約3000~4000mgの鉄が存在しており、そのほとんどは赤血球、肝臓、筋肉、マクロファージに存在しています。そのうち、血清鉄中の鉄は約4mgで、血中で鉄を運搬する機能を持つトランスフェリンという蛋白質と結合しています。鉄と結合していないトランスフェリンを不飽和鉄結合能(unsaturated iron binding capacity;UIBC)と呼びます。総鉄結合能(total iron binding capacity;TIBC)は、トランスフェリンに結合可能な鉄量を示すため、「総鉄結合能(TIBC)=不飽和鉄結合能(UIBC)+血清鉄」となります。総鉄結合能(TIBC)の基準値は300~360µg/dlで、鉄欠乏においてTIBCは増加します。
TIBCと血清鉄の比で示される「トランスフェリン飽和率=血清鉄/TIBC×100(%)」も鉄欠乏の評価に用いられることがあり、16%以下で鉄欠乏が示唆されます。
 

鉄欠乏性貧血の診断

前述の通り、小球性低色素性貧血、血清フェリチンの低下、血清鉄の低下、総鉄結合能(TIBC)の増加を認めれば、鉄欠乏性貧血と診断します。
 

鉄欠乏性貧血の診断基準

ヘモグロビン
g/dl
総鉄結合能(TIBC)
µg/dl
血清フェリチン
ng/ml
鉄欠乏性貧血<12≧360<12
貧血のない鉄欠乏≧12≧360 or <360<12
正常≧12<360≧12

  

まとめ

この記事では、貧血の中でも、日常診療でよくみられる鉄欠乏性貧血の診断について解説しました。
当クリニックの外来診療では内科・血液内科を中心とした診療を行っており、既に貧血で治療中の患者さんの診療はもちろん、健康診断や人間ドックで「再検査」「精密検査」の通知を受けた後のご相談等も承っております。
お身体に不調や不安がありましたら、どんな症状でもお気軽にご来院ください。
 

参考文献

・鉄材の適正使用による貧血治療指針 改訂[第3版],
 編集・政策 日本鉄バイオサイエンス学会 治療指針作成委員会,発行日 2015年12月15日,
 発行者 高橋哲雄,発行所 株式会社 響文社
・鉄欠乏性貧血の検査と診断,塩崎 宏子 泉二 登志子,
 日本内科学会雑誌 第99巻 第6号,平成22年6月10日
・臨床検査データブック 2021-2022,発行 2021年1月15日 第1刷,監修 髙久 史麿,
 発行者 株式会社 医学書院

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