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逆流性食道炎とは

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逆流性食道炎とは、胃食道逆流症(gastroesophageal refluxdisease:GERD)に分類される疾患です。
胃食道逆流(gastroesophageal reflu:GER)は、胃食道逆流による食道粘膜障害と煩わしい症状のいずれか、または、両方を引き起こす疾患で、逆流性食道炎と非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)に分類されます。
主な症状として、胸やけ(胸骨後部の焼けるような感覚)、呑酸どんさん(逆流した胃内容物が口腔内や下咽頭まで上がる感じがする症状)が出現する他、胸痛や食道外症状が出現することもあります。
胃食道逆流症(GERD)は、日本では10%程度の方が罹患していると推定されています。ただし、胃食道逆流症の症状がある方は平均17.7%であり、罹患率10%を上回っています。このことは、日本において、胃食道逆流症のうち非びらん性逆流症(NERD)が半数以上を占めることを示しています。
今回の記事では、日本人の比較的多くの方に症状がみられる胃食道逆流症(GERD)について説明します。

 
 

胃食道逆流症(gastroesophageal refluxdisease:GERD)の病態

胃酸の胃食道逆流(GER)が、食道粘膜傷害の主な原因です。健康な方では胃酸が食道に逆流しないよう、食道胃接合部において、下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)と横隔膜脚(crural diaphragm:CD)が食道や胃よりも高い圧力帯を形成することで、その機能を果たしています。
胃食道逆流症(GERD)の患者さんにおいては、一過性の下部食道括約筋(LES)の弛緩、腹圧の上昇、下部食道括約筋(LES)の低圧力によって、食道内へ胃酸の逆流が起こってしまいます。
pHモニタリングという検査による調査の結果、逆流性食道炎の患者さんでは、食道内の胃酸暴露の時間が健康な方と比べて明らかに長いことが分かっており、食道粘膜傷害が重症になるほど、胃酸暴露の時間が更に長くなります。また、胃酸の分泌量も増加していることが判明しています。
 

食道裂孔ヘルニア

食道裂孔ヘルニアは、胃食道逆流症(GERD)を起こしやすくなることが分かっています。
食道は、咽頭に続き、横隔膜にある食道裂孔を通って、腹腔内の胃に連なっています。
食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜にある食道裂孔を通して、胃が縦郭内(胸腔内の左右の肺の間)に突出している状態です。通常、前述の通り、下部食道括約筋(LES)と横隔膜脚(CD)が高圧帯を形成することによって、食道胃接合部で胃酸の逆流が起こらないようにしています。しかし、食道裂孔ヘルニアを有する方では、食道胃接合部の圧力等に関連して、胃酸の逆流増加と排出遅延をきたし、胃食道逆流症(GERD)の症状出現につながることがあります。
 

食道運動障害

食道胃接合部の機能異常と食道体部の運動障害も、胃食道逆流症(GERD)が起こりやすくなります。
食道内に逆流した胃酸を胃に排出するクリアランス(排泄能力)が低いと、食道の酸暴露時間の延長に繋がります。
通常、食物や水分を飲み込む(嚥下する)と食道の筋肉が収縮波(蠕動波)を発生させ、これによって飲み込んだものは胃の方へ輸送されていきます。
嚥下に続いて起こる蠕動を一次蠕動といい、一次蠕動によって胃酸の大部分が胃に排出され、食道内に残った僅かな胃酸は食物や水分と共に飲み込んだ唾液によって中和されます。このため、一次蠕動は胃酸のクリアランスにとって非常に重要な役割を持ちます。
一次蠕動波高(蠕動波の高さ)が低下している方では、胃酸のクリアランスも低下することが分かっており、逆流性食道炎では重症例ほど食道運動障害の合併が多くなります。
 

逆流性食道炎と非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)の違い

非びらん性逆流症(NERD)は、逆流性食道炎とは臨床像が異なることが知られており、女性が多く、食道裂孔ヘルニアの合併が少なく、低体重の人が多いという特徴があります。
逆流性食道炎と非びらん性逆流症(NERD)を比較した多くの研究において、胃食道逆流(GER)にかかわる病態の一部は、共通の病態の重症度の差として捉えるが可能であるものの、非びらん性逆流症(NERD)は逆流性食道炎の軽症型という単純な説明はできないことが分かっており、日本においても食道インピーダンス・pH検査を行って病態評価する取り組みが行われるようになっています。
 

臨床における非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)

2016年改訂のRomeⅣ基準(機能性ディスペプシアの国際的な診断基準)において、胃食道逆流症(GERD)等の胸やけを呈する疾患については、逆流性食道炎、非びらん性逆流症(NERD)、逆流過敏性食道、機能性胸やけ4つに分類されました。
実際の臨床において「非びらん性逆流症(NERD)」と診断されるものには、①逆流性食道炎と同じように異常な食道酸暴露による非びらん性逆流症(NERD)、②異常な食道酸暴露は認めないが、食道の感受性が亢進して少量の酸または非酸(弱酸)の胃食道逆流(GER)によって症状が出現している逆流過敏性食道、③胃食道逆流(GER)とは無関係に症状が出現している機能性胸やけ の3つの病態が含まれます。
 
 

胸やけを呈する疾患の分類

胸やけを呈する疾患の分類
(参考文献:胃食道逆流症(GERD)ガイドライン2021(改訂第3版)p15-16)

 
 

胃食道逆流症(gastroesophageal refluxdisease:GERD)の要因

胃食道逆流症(GERD)は胃酸を含む胃内容物が食道に逆流することに起因する疾患であるため、胃酸分泌能が最も重要な因子となります。
また、胃食道逆流症(GERD)を誘発する可能性のある因子として、激しい肉体運動、脂肪摂取の増加、過食、肥満、円背、ストレス、薬剤等があげられます。
 

日本人の胃酸分泌能の変化

日本人を含む東アジア人の胃酸分泌能は欧米人に比較して低いことが知られており、日本人の胃食道逆流症(GERD)の有病率が低い一因と推察されてきました。ところが、近年H.pylori感染率の低下により、胃粘膜の萎縮性胃炎の発症等が減少したため、特に若年層の日本人では胃酸分泌能が増加してきていることが研究で分かっています。
 

胃食道逆流症(GERD)を誘発する因子

激しい運動や筋力トレーニングは、胃食道逆流(GER)を増加させることが報告されています。
また、食事に関して、高脂肪食、就寝前の食事は、一過性の下部食道括約筋(LES)弛緩に起因した胃食道逆流(GER)の誘発因子となります。
さらに、肥満、高齢化・骨粗鬆症による円背(円背による腹圧の上昇)、下部食道括約筋(LES)圧を低下させる薬剤が胃食道逆流(GER)の誘発因子となり、胃食道逆流症(GERD)を増悪させる原因となります。
この他、ストレス増加や睡眠時間短縮は、中枢性の食道知覚過敏を生じさせることにより、逆流症状の誘発因子として関与が報告されています。
なお、激しい運動は胃食道逆流(GER)となるものの、適度な運動は胃食道逆流症(GERD)の発症リスクを下げるという報告があります。
いわゆる食べ過ぎ飲み過ぎ、肥満、睡眠不足、ストレス等が胃食道逆流(GER)の誘発因子となることより、適度な運動を含めた生活習慣の改善は妨げられるものではありません。

 
 

胃食道逆流症(gastroesophageal refluxdisease:GERD)の診断

問診による自覚症状の評価、内視鏡検査による重症度の評価等を行い、胃食道逆流症(GERD)の診断を行います。
 

自覚症状の評価

胃食道逆流症(GERD)の定型的な症状は胸やけと呑酸です。ただし、この症状の理解は、民族・文化・性別・生育環境、健康な方と患者さん、医師と看護師…等の様々な原因により、遺伝子レベルでの個人の差が関連する可能性が示されており、単に症状の有無を聴取するだけなく、具体的な表現を用いた注意深い問診が必要となります。
また、胃食道逆流(GER)が唯一の原因であることは少なく、あくまで多くの誘発因子のうちのひとつであると考えられています。
食道外の症状として、咽頭炎、咳嗽等、関連が推測される症状として、咽頭炎、副鼻腔炎等が挙げられています。これらの症状の出現機序としては、胃内容物が上部食道括約筋を超えて食道外臓器へ逆流する直接刺激、食道内への逆流による迷走神経を介した気管支収縮や咽頭・呼吸器上皮の知覚過敏が想定されています。
胃食道逆流症(GERD)の診断に用いられる問診票は様々あり、感度・特異度ともに平均70%前後で初期診断に有用です。2004年に日本で開発されたFスケール(Frequency Scale for the Symptoms of GERD:FSSG(胃食道逆流症症状頻度尺度))は、症状評価や治療効果判定に用いられています。
ただし、自覚症状の重症度は、食道粘膜傷害の内視鏡的重症度とは必ずしも相関せず、この原因として年齢や性別が挙げられています。
年齢とともに症状が発現しにくくなり、逆流性食道炎が重症であっても、胸やけなどの逆流症状の程度は逆に低下し、非定型症状が増加します。
 

内視鏡検査による重症度評価

逆流性食道炎の内視鏡的重症度分類として現在広く用いられているのは、1994年の世界消化器学会(ロサンゼルス開催)で紹介された「ロサンゼルス分類」で、内視鏡的に観察される明らかな粘膜傷害の広がりの程度から重症度をGrade分類するものです。
このGrade分類は胃食道逆流(GER)の程度、治療反応性、薬剤(PPI)維持療法中の再発リスク等と相関していることが報告されており、ロサンゼルス分類による評価に基づいて適切な治療や経過観察を検討することができます。
  

ロサンゼルス分類

Grade N内視鏡的に変化を認めないもの
Grade M色調変化型(minimal cange)
粘膜傷害は認めないが下部食道の色調変化を認めるもの
Grade A長径が5mmを超えない粘膜傷害のあるもの
Grade B少なくとも1箇所以上の粘膜傷害の長径が5mm以上あり、
それぞれ別の粘膜ひだ上に存在する粘膜傷害が
互いに連続していないもの
Grade C少なくとも1箇所以上の粘膜傷害は
2条以上の粘膜ひだに連続して拡がっているが、
全周3/4を超えないもの
Grade D全周3/4以上にわたる粘膜傷害

(参考文献:医学書院, 用語集, ロサンゼルス分類(ガストロ用語集2023「胃と腸」47巻5号より))

 
 

胃食道逆流症(gastroesophageal refluxdisease:GERD)の治療

胃食道逆流症(GERD)患者さんの治療における主要な目的は、症状コントロールとQOL改善、合併症の予防です。治療によって症状を消失させることができると、健康な方と同等のレベルまでQOLを改善させることができます。
生活習慣改善を含む内科的治療と外科的治療があり、患者さんごとの胃食道逆流症(GERD)の状態に併せて、適切な治療方法を選択することが重要です。
 

薬物療法

薬物療法においては、胃酸やペプシン等を抑制するプロトンポンプインヒビター(Proton Pump Inhibitor:PPI)が高いQOL改善効果を発揮します。プロトンポンプインヒビター(PPI)の投与により胃食道逆流(GER)を抑えられると、睡眠障害改善や非心臓痛性胸痛が消失することにより、患者さんのQOLを改善させることができます。
また、胃食道逆流症(GERD)治療と合併症予防という観点からは、食道粘膜傷害の治癒と寛解の維持が重要になります。逆流性食道炎の重症度は胃酸の暴露時間に相関するため、強力な酸暴露抑制が効果的です。前述のプロトンポンプインヒビター(PPI)は、治癒率も高く早期の症状寛解が得られるものの、胃酸による酸性環境で不安定という欠点があるため、重症例の3~4割で治癒が得られないとされています。2015年に使用可能となったカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker:P-CAB)は、酸に対して安定であり、維持療法においてはプロトンポンプインヒビター(PPI)より優れた治療効果があることが示されています。軽症例ではプロトンポンプインヒビター(PPI)とカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)を適切に選択、重症例においてはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)が推奨されています。
 

生活習慣の改善

胃食道逆流症(GERD)の治療に際しては、薬物療法と併せて、生活指導を行うことが推奨されています。生活習慣の改善に関して、胃食道逆流症(GERD)の治療に有効性が報告されているものは、肥満の方に対する減量、喫煙、遅い時間の夕食を避けること、就寝時の頭位の挙上が挙げられます。
肥満の方(特に内臓脂肪型の肥満)は、腹腔内圧および胃内圧が上昇していることによって、下部食道括約筋(LES)の機能が低下しています。このため、胃食道逆流(GER)や食道裂孔ヘルニアが起こりやすく、肥満は胃食道逆流症(GERD)の原因となります。また、喫煙は下部食道括約筋(LES)を弛緩させ、逆流を誘発することが知られています。肥満かつ喫煙されている方では、肥満がない方と比較して禁煙による逆流減少効果が低いことが分かっており、減量がより重要とされています。
遅い時間の夕食を回避すること、就寝時の頭位挙上に関しては、特に夜間に症状が発現する患者さんにおいて有効であることが報告されています。

 
 

まとめ

この記事では、胃食道逆流症(GERD)について簡単に解説しました。当クリニックの外来診療では内科・血液内科を中心とした診療を行っており、既に逆流性食道炎、非びらん性逆流症(NERD)で治療中の患者さんの診療はもちろん、健康診断や人間ドックで「再検査」「精密検査」の通知を受けた後のご相談等も承っております。
お身体に不調や不安がありましたら、どんな症状でもお気軽にご来院ください。
 

参考文献

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)
 発行2021年4月30日 改訂第3版発行,
 編集 一般社団法人日本消化器病学会,制作 株式会社 南江堂

・胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021の概説
 ―Potassium-competitive acid blocker(P-CAB)の位置付けについてー
 春田 明子, 中島 典子,日本大学医学部内科学系消化器肝臓内科学分野,
 J. Nihon Univ. Med. Ass., 2022; 81(4):179–185
 
機能性消化管疾患診療ガイドライン2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版)
 発行2021年4月30日 改訂第2版発行,
 編集 一般社団法人 日本消化器病学会,制作 株式会社 南江堂
 
医学書院, 用語集, ロサンゼルス分類(ガストロ用語集2023「胃と腸」47巻5号より)

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