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過活動膀胱とは

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過活動膀胱(overactive bladder syndrome:OAB)とは、尿意切迫感(急に起こる、我慢できないような強い尿意)を必須の症状として、頻尿または夜間頻尿、もしくは、その両方を伴う症状症候群と定義されています。
尿失禁を伴う場合と尿失禁を伴わない場合があります。
 
日本では、40歳以上対象、過活動膀胱症状を「排尿回数8回/日以上かつ尿意切迫感1回/週以上」とした大規模疫学調査において、有症状率12.4%、男女ともに加齢に伴って有症状率が上昇し、50~70歳では男性が明らかに多いという調査結果が出ています。過活動膀胱の症状が、心理的負担、睡眠や活力、身体的活動、仕事、家事、社会的役割といった生活に関わる事項に影響を及ぼしていると回答した方は約64%であり、生活の質(Quality of life:QOL)を損なう疾患であると言えます。
今回の記事では、日本において患者さんが1,000万人を超え、生活の質(QOL)にも大きな影響を与える過活動膀胱(OAB)について説明します。

 
 

過活動膀胱(overactive bladder syndrome:OAB)の発症機序

過活動膀胱(OAB)は、いまだに十分な発症機序が解明されていない疾患ですが、神経疾患に起因すると考えられる神経因性と、それ以外の非神経因性の2種類に大別されます。
 

神経因性

排尿機能は、膀胱に尿を溜めておく「蓄尿」と、膀胱から尿道を通って尿を排出する「尿排出」の2つの機能から構成されます。
これらの機能が正常に保たれることで「トイレまで漏れることなく我慢」でき、「必要だと思った時に残尿なく排尿」できますが、この正常な排尿機能の維持には、末梢神経は当然ながら、中枢神経路を介しての複雑な制御が必要です。したがって、神経の変性疾患や外傷等よって、排尿機能に関連する神経が障害されると、頻尿、尿失禁、尿排出力の低下等の症状が現れます。
膀胱に尿を溜めておく「蓄尿」において、下部尿路からの求心性神経伝達(末梢からの刺激を中枢に伝える神経伝達)に問題が発生すると、神経因性の過活動膀胱が起こります。脳への神経入力処理に障害が起こる場合と、脊髄・末梢神経レベルにおける神経伝達の病的亢進が考えられます。
 

神経因性過活動膀胱の発症メカニズム

脳疾患脳血管障害(脳出血・脳梗塞) パーキンソン病 多系統萎縮症
進行性核上性麻痺 大脳白質病変 脳腫瘍 など
脊髄疾患脊髄損傷 多発性硬化症 脊椎変性疾患(変形性脊椎症・椎間板ヘルニア)
急性散在性脳脊髄炎 急性横断性脊髄炎 HTLV-1関連脊髄症(HAM) など
馬尾・末梢神経疾患腰部脊柱管狭窄症 糖尿病性末梢神経障害 など

(参考文献:過活動膀胱診療ガイドライン[第3版]p154 表15)
 

非神経因性

前述したような明らかな神経疾患の存在がないにも関わらず、過活動膀胱の症状が現れることがあります。
この非神経因性過活動膀胱の発生に関与する要因として、生活習慣に関連する異常(高血圧・代謝異常)に伴う血管内皮機能の障害、自律神経系の亢進、全身または局所の炎症、下部尿路に隣接する腸管の機能的異常などが研究から分かってきています。特に、生活習慣の乱れや関連する異常に関しては、その酸化ストレスが、血管内皮障害、自律神経系亢進、炎症を引き起こすため、特に重要な要因であると考えることができます。
また、性別特有の過活動膀胱発症の要因があります。女性では、女性ホルモン低下と骨盤臓器脱、男性では、膀胱出口部閉塞と加齢に伴うテストステロン低下が挙げられます。いずれも正確な機序については未だ研究中ではあるものの、各種疫学調査や研究から、過活動膀胱発症に関与する可能性が指摘されています。

 
 

過活動膀胱の診断

前述の通り、過活動膀胱は頻尿または夜間頻尿、もしくは、その両方を伴う症状症候群と定義されています。自覚症状に基づいて診断される疾患であるため、自覚症状の評価が重要となります。過活動膀胱の診断に必ず必要な基本評価として、自覚症状の問診、病歴聴取、過活動膀胱症状スコア(Overactive Bladder Symptom Score:OABSS)、身体所見・神経学的所見、尿検査、残尿測定を行い、鑑別が必要な疾患等を除外するとともに、排尿障害の有無を調べます。
また、過活動膀胱の適切な治療方針を選択するためには、必要に応じて様々な追加検査が必要なこともあります。特に、過活動膀胱は日常生活に支障をきたし、生活の質(QOL)を大きく損なう疾患であることから、生活困窮度やQOLの評価が重要な意味を持ちます。
  

鑑別疾患

過活動膀胱の診断を進めるにあたっては、過活動膀胱と同様の症状を示す疾患、生命予後に重要な疾患を除外することが最も重要です。特に、悪性腫瘍(膀胱癌、前立腺癌、その他の骨盤内腫瘍)の存在は常に念頭に置く必要があります。その他、除外するべき疾患として、尿路結石(膀胱・尿道・下部尿管の結石)、下部尿路の炎症性疾患(膀胱炎、前立腺炎、尿道炎)、膀胱周囲の異常(子宮内膜症等)、心因性の頻尿、薬剤の副作用などが挙げられます。
 

過活動膀胱症状スコア(Overactive Bladder Symptom Score:OABSS)

妥当性が検証されている日本語版の症状質問票には、過活動膀胱症状スコア(OABSS)の他、国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)、主要下部尿路症状スコア(Core Lower Urinary Tract Symptom Score:CLSS)等があります。過活動膀胱症状スコア(OABSS)は全症例で評価することが推奨されています。
 

過活動膀胱症状スコア(OABSS)

以下の症状がどれくらいの頻度でありましたか。
この1週間のあなたの状態に最も近いものをひとつだけ選んで、点数の数字を◯で囲んで下さい。

質問症状点数頻度
1朝起きた時から寝る時までに、何回くらい尿をしましたか?07回以上
18~14回
215回以上
2夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか?00回
11回
22回
33回以上
3急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか?0なし
1週に1回より少ない
2週に1回以上
31日1回くらい
41日2~4回
51日5回以上
4急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか?0なし
1週に1回より少ない
2週に1回以上
31日1回くらい
41日2~4回
51日5回以上
合計点数      点
過活動膀胱の診断基準尿意切迫スコア(質問3)が2点以上 かつ OABSSスコアが3点以上
過活動膀胱の重症度判定【OABSSスコア】
軽症  : 5点以下
中等症 : 6~11点
重症  : 12点以上

(参考文献:女性下部尿路症状ガイドライン[第2版]p108,表9)
 
 

QOL評価

過活動膀胱は日常生活に支障をきたし、生活の質(QOL)を大きく損なう疾患であるため、適切な治療を選択するためにも、生活困窮度やQOLを評価することが推奨されています。臨床では疾患特異的質問票という種類の質問票を用いることが多く、過活動膀胱においては、日本語版として妥当性が検証されている、キング健康調査票(King’s Health Questionnaire:KHQ)、過活動膀胱質問票(Overactive Bladder-questionnaire:OAB-q)という質問票等を使用して評価を行います。

 
 

過活動膀胱の治療

過活動膀胱の治療においては、行動療法、薬物療法、神経変調療法、外科的治療法等の治療方法から、患者さんごとの状態に併せた適切な方法を選択することが重要です。一般的には、まず生活指導や膀胱訓練等の行動療法を行い、その後、薬物治療を行います。これらの治療で改善しない場合には、神経変調療法や外科的治療の適応対象となります。
  

行動療法

過活動膀胱に対する行動療法には、生活指導、膀胱訓練、骨盤底筋訓練等があります。これらの行動療法は、排尿習慣を変えることによる膀胱機能の調整と、訓練によって膀胱収縮および尿意切迫感を抑制し、膀胱を制御することを目的として行います。
  

生活指導

生活に関する様々な要素が、過活動膀胱の症状に影響していると考えられています。生活指導の内容は多岐にわたりますが、主に、体重減少、食事・飲水指導、カフェイン摂制限などの指導が推奨されています。
 

膀胱訓練(bladder training)

膀胱訓練とは、尿を意識的に我慢することで膀胱の容量を増やし、頻尿や夜間頻尿の症状を改善させる訓練のことです。広義の膀胱訓練として、定時排尿法、習慣排尿法、排尿促進法とあわせて計画療法といい、過活動膀胱や切迫性尿失禁の治療法として行われます。
定時排尿法(timed voiding)は、尿失禁が生じないように排尿スケジュールを作成する方法で、通常2~4時間ごとにトイレへ誘導します。習慣排尿法(habit training)は、患者さんの排尿習慣にあわせて失禁前に予防的にトイレへ行くスケジュールを立てる方法、排尿促進法(prompted voiding)は、医療従事者や介護者が、患者さんに排尿を促す方法です。
膀胱訓練の効果として、尿意切迫感や切迫性尿失禁の改善率は薬物療法とほぼ同等であると報告されています。また、訓練には副作用がなく、安全性が高い治療法です。
 

骨盤底筋訓練(pelvic floor muscle training: PFMT)

骨盤底筋訓練は理学療法の一種で、膀胱機能の制御を目的として行われます。骨盤底筋の筋繊維を増強させると、腹圧時に骨盤底筋を収縮させる強度と収縮のタイミングが向上します。骨盤底筋の収縮により、排尿筋の収縮が反射性に抑制されるため、切迫性尿失禁を抑えることができます。
女性の腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、過活動膀胱に対して有効な治療法であることが既に示されており、また、膀胱訓練と同じく副作用がないため、様々な治療と組み合わせて行われています。
 
 

薬物療法

行動療法で十分な治療効果を得られない場合は、薬物療法を導入します。過活動膀胱に対して有効性が認め有れているのは抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬(β3受容体作動薬)であり、抗コリン薬が第一選択薬として用いられています。
 

抗コリン薬

過活動膀胱に対する第一選択薬として用いられている薬剤です。過活動膀胱における尿意切迫感や頻尿は膀胱の過剰な収縮が原因です。膀胱収縮は、膀胱平滑筋に存在するムスカリン受容体に神経伝達物質であるアセチルコリンが作用することで起こります。抗コリン薬は、アセチルコリンがムスカリン受容体に作用することを阻害することによって、膀胱平滑筋の過剰な収縮を抑制することを作用機序とした過活動膀胱の治療薬です。
ただし、ムスカリン受容体は膀胱だけではなく全身に存在しています。臨床試験において有効性と安全性は確率されてはいるものの、抗コリン薬の使用にあたっては、その作用機序により全身のムスカリン受容体が阻害されることによる副作用に十分注意する必要があります。抗コリン薬に特徴的な副作用として、口内乾燥や便秘が多くみられます。
 

β3アドレナリン受容体作動薬(β3受容体作動薬)

抗コリン薬とは作用機序が異なる治療薬として開発された薬剤です。膀胱に尿を溜める蓄尿期には、交感神経が優位となり、膀胱平滑筋のβアドレナリン受容体が膀胱を弛緩させることで蓄尿が可能となります。βアドレナリン受容体には、β1、β2、β3のサブタイプが存在し、ヒト膀胱ではβ3受容体が97%を占めることが分かっています。β3アドレナリン受容体作動薬は、膀胱のβ3受容体に対して選択的に作用することによって、膀胱の蓄尿機能を向上させることで、過活動膀胱の症状を改善させるという作用機序の薬剤です。
抗コリン薬と同等の効果を示し、抗コリン作用に基づく副作用(口内乾燥や便秘)がほとんど認められないという点が特徴です。
 

過活動膀胱(頻尿・尿失禁)の治療薬

【β3アドレナリン受容体作動薬(β3受容体作動薬)】

一般名用法・用量
ミラベグロン50mg 1日1回 食後 経口服用
ビベグロン50mg 1日1回 食後 経口服用

【抗コリン薬】

一般名用法・用量
オキシブチニン経皮吸収型製剤貼付剤1枚(オキシブチニン73.5mg/枚含有)
1日1回 1枚 下腹部/腰部/大腿部のいずれかに貼付
プロピベリン20mg 1日1回 経口服用(1日2回まで増量可)
トルテロジン4mg 1日1回 経口服用
ソリフェナシン5mg 1日1回 経口服用(1日10mgまで増量可)
イミダフェナシン1回0.1mg 1日2回 朝夕食後 経口服用
(1回0.2mg1日2回まで増量可)
フェソテロジン4mg 1日1回 経口服用(1日8mdまで増量可)

(参考文献:過活動膀胱診療ガイドライン[第3版]p186,表23,推奨グレードA)

 
 

まとめ

この記事では、過活動膀胱(OAB)ついて簡単に解説しました。当クリニックの外来診療では内科・血液内科を中心とした診療を行っており、既に過活動膀胱で治療中の患者さんの診療はもちろん、健康診断や人間ドックで「再検査」「精密検査」の通知を受けた後のご相談等も承っております。
お身体に不調や不安がありましたら、どんな症状でもお気軽にご来院ください。
 

参考文献

過活動膀胱診療ガイドライン[第3版],2022年9月1日第3版 第1刷 発行,
編集 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会,発行 リヒッチメディカル株式会社
 
女性下部尿路症状診断ガイドライン[第2版],2019年9月30日第2版 第1刷 発行,
編集 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会,発行 リヒッチメディカル株式会社
 
・中枢神経系における排尿薬理機構の概説,
吉田 直樹,橘田 岳也,嘉手川 豪心,宮里 実,清水 孝洋,
日本薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)155,4~9(2020)

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