慢性リンパ性白血病(CLL)は、主にBリンパ球が異常増殖する血液の病気です。進行が比較的緩やかなため、無症状のまま長期間経過することも多く、日本では高齢者に多く発症します。
本記事では、CLLの症状や診断方法、治療法に加え、患者さんの生活の質を向上させるためのポイントや支援体制について詳しく解説します。
CLLに関する正しい理解と適切なサポートを知るための一歩としてお役立てください。
慢性リンパ性白血病とは
慢性リンパ性白血病の概要
慢性リンパ性白血病(まんせいリンパせいはっけつびょう、以下CLLと略します)は、主に『リンパ球』と呼ばれる白血球の一種ががん化して増殖する血液の病気です。
欧米では高い頻度でみられる白血病の一つですが、日本人を含むアジア人においては比較的まれとされています。
白血病には急性と慢性があり、また骨髄性とリンパ性といった分け方も存在します。
その中でも、CLLは慢性リンパ性に分類されるタイプです。
慢性という言葉からもわかるように、病気の進行は比較的ゆるやかであり、無症状のまま長期間経過することも少なくありません。また、CLLは高齢者に多く発症し、平均発症年齢は70歳前後といわれています。
一方、白血病は血液や骨髄と深く関係する病気の総称です。
血液を構成する主な成分は赤血球・白血球・血小板の3種類がありますが、そのなかでもリンパ球が異常増殖していくのがこのCLLです。症状が軽度の場合は日常生活にあまり影響を与えないこともありますが、進行度が高まると治療が必要になります。
症状や発生メカニズム
CLLの特徴の一つとして、無症状で経過する期間が長いことが挙げられます。
定期健診の血液検査などで白血球数の増加や異常リンパ球の存在が発見され、初めてCLLと診断される例も少なくありません。
症状があらわれる場合には以下のようなものがあります。
- リンパ節の腫れ(特に首や脇の下、鼠径部など)
- 感や疲労感
- 発熱(原因不明の微熱など)
- 貧血による息切れ・動悸
- 皮下出血や歯茎からの出血など出血傾向
CLLが発生する原因には、遺伝要素や免疫の変化などが関与していると考えられています。ただし、はっきりとした発症メカニズムはまだ解明されていません。
リンパ球の前駆細胞が遺伝子変異を起こすことで、がん化したリンパ球が正常のリンパ球よりも長く生存し、ゆっくりと増殖していくことで病態が形成されます。
慢性リンパ性白血病と白血球・リンパ球の関係
CLLの本質は、『リンパ球(Bリンパ球が多い)の異常増殖』にあります。
白血球は好中球や好酸球、好塩基球、単球、リンパ球など複数の種類に分かれますが、リンパ球はさらにTリンパ球、Bリンパ球、NK細胞などに細分化されます。
その中でもCLLはBリンパ球が異常に増殖するタイプが大半を占めるため、B細胞性白血病と呼ばれることもあります。
リンパ球は本来、免疫システムの中核を担っており、外敵(ウイルス・細菌など)を排除する大切な役割を果たします。
しかしCLLでは、がん化したBリンパ球が増える一方で、正常なリンパ球の数や機能が低下しやすくなるため、免疫力の低下を引き起こします。
また、過剰に増えた異常リンパ球がリンパ節や脾臓、骨髄などに蓄積すると、臓器の機能が障害されることもあります。
慢性リンパ性白血病の診断と検査
診断に必要な検査方法
CLLの診断では、まず血液検査が重要な手がかりとなります。
血液中の白血球数が増加しているだけでなく、単一のクローン性リンパ球(同じ性質を持つリンパ球集団)の増加が確認されることが大きな特徴です。
血液検査の次に行われるのが『フローサイトメトリー』という検査で、表面抗原(CD5、CD19、CD20、CD23など)を詳しく調べることでBリンパ球の異常増殖を確認します。
その他、骨髄検査(骨髄穿刺)によって骨髄内の細胞を直接観察し、白血病細胞の割合や形態を詳細に分析することがあります。
また、リンパ節が腫れている場合には、リンパ節生検(腫大したリンパ節の組織を採取して顕微鏡で分析する検査)を行うこともあります。
初期症状と診断のタイミング
CLLは多くの場合、無症状のまま健康診断の血液検査で偶然見つかることが多い病気です。そのため、初期症状があまり見られず、診断が遅れるというよりも「症状が軽度な段階で発見される」ケースが増えています。
倦怠感やリンパ節の腫れがあったとしても、風邪や別の原因によるものと考えられやすいため、見逃されることもある点には注意が必要です。
検査結果の評価と分類(Rai分類・Binet分類)
CLLの進行度や予後を把握するために、以下の2つの分類がよく用いられます。
Rai分類
アメリカで主に使われる分類で、患者さんの症状や血液所見に応じてステージ0(低リスク)からIV(高リスク)に分かれています。
ステージ0:リンパ球増加のみ
ステージI・II:リンパ節や肝臓、脾臓などの腫大
ステージIII・IV:貧血や血小板減少など
Binet分類
ヨーロッパで広く使われる分類で、腫大したリンパ節の数や貧血・血小板減少の有無を基準にA、B、Cの3期に分かれます。
ステージA:3カ所未満のリンパ節腫大
ステージB:3カ所以上のリンパ節腫大
ステージC:貧血・血小板減少あり
これらの分類は、治療を行うタイミングや治療方針を検討する際の目安になります。無症状の場合は経過観察(ウオッチ&ウェイト)を選択することも多く、症状が出てきたり、血球減少や臓器障害が見られるようになった段階で治療を開始するケースが一般的です。
慢性リンパ性白血病の治療法
標準的な治療法
CLLの治療は、患者さんの年齢・症状・合併症の有無・進行度などを考慮しながら選択されます。主な治療法としては以下のようなものがあります。
化学療法(抗がん剤治療)
フルダラビンやアルキル化剤(シクロフォスファミドなど)、ベンダムスチンといった薬剤が使用されることがあります。
近年では、より副作用を抑えながら効果を高めるレジメン(治療薬の組み合わせ)も検討されています。
免疫化学療法(抗CD20モノクローナル抗体)
リツキシマブやオビヌツズマブなどの薬剤を、化学療法と併用することで治療効果を高める方法です。がん化したBリンパ球の表面にあるCD20という分子に結合し、異常細胞を効率よく排除します。
経過観察(ウオッチ&ウェイト)
症状がほとんどなく、血球数などにも大きな異常がない場合には、積極的な治療を行わずに定期的な検査を行い、病状が変化したら治療を検討するという方法をとることがあります。
免疫療法と分子標的治療の可能性
近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、新たな治療法が注目を集めています。CLLでは下記のような薬剤が使われることがあります。
BTK阻害薬(イブルチニブなど)
B細胞受容体シグナル伝達に関与するBTK(Bruton’s tyrosine kinase)を阻害することで、異常Bリンパ球の増殖を抑えます。
BCL-2阻害薬(ベネトクラクスなど)
異常リンパ球の生存を促すBCL-2というタンパク質を阻害し、がん細胞のアポトーシス(自然死)を誘導します。
CAR-T細胞療法
患者さんのT細胞を遺伝子操作によってがん細胞を認識・攻撃できるように改変し、体内に戻す治療法です。リンパ腫や急性リンパ性白血病で実用化され、CLLへの応用も期待されていますが、保険適用などの面でまだ研究段階の要素が強いです。
難治性・再発時の治療選択肢
一度治療を行った後に再発したり、初回治療で十分な効果が得られない場合は、以下のような治療法が検討されます。
再発後の再治療
化学療法や分子標的薬の別の組み合わせを試したり、新たな薬剤に切り替えたりします。
造血幹細胞移植(同種移植)
若い患者さんや全身状態が良好な患者さんには、造血幹細胞移植が選択肢となる場合があります。ただし、高齢者が多いCLLでは適応が限られます。
臨床試験への参加
新しい治療薬や治療法の可能性を探るため、臨床試験(治験)への参加が推奨されることもあります。
慢性リンパ性白血病の経過と予後
経過観察時の注意点と生活改善
CLLで比較的症状が軽く、ステージが低い場合には、経過観察が選択されることが多いです。定期的に血液検査や画像検査を行い、悪化の兆候がないかを観察します。患者さん自身も以下のような点に注意して生活することが大切です。
感染予防
免疫力が低下している可能性があるため、手洗い・うがいの徹底やインフルエンザ予防接種などを検討しましょう。
バランスの良い食事
栄養バランスを整えることで体力や免疫力を維持しやすくなります。
適度な運動
ウォーキングや軽い筋力トレーニングなど、体調に合わせて無理のない範囲で行うとよいです。
定期的な医師の診察と検査
悪化や進行の兆候を見逃さないためにも、自己判断で通院を中断しないようにしましょう。
生存率と治療効果に関わる因子
CLLは、他の白血病と比べて進行が緩やかな場合が多く、5年生存率や10年生存率も比較的高い傾向があります。
ただし、患者さんの年齢や合併症の有無、遺伝的な変異(例えば17p欠失など)の存在によっては、治療効果や予後が大きく左右されることが知られています。
予後に影響するリスク因子
CLLの予後に関わるリスク因子として、下記が挙げられます。
染色体異常(17p欠失、11q欠失など)
特に17p欠失がある場合は、従来の化学療法が効きにくく、予後が不良になりやすいと報告されています。
患者さんの全身状態(PS)や高齢による合併症
心疾患や糖尿病などの慢性疾患を抱えていると治療が制限される場合があるため、治療選択や効果に影響を及ぼします。
β2マイクログロブリン値
血液検査で測定される数値で、値が高いほど予後不良とされています。
原因と病態の理解
慢性リンパ性白血病の原因となる遺伝要素
CLLの発症において、家族内発症がみられることがあるため、遺伝的な素因が一定の影響を持つと考えられています。
実際、CLLの近親者においては、他の血液がんのリスクがやや高まるとの報告もあります。
ただし、特定の遺伝子変異がすべての患者さんで共通しているわけではなく、多因子的な要因が絡んでいる可能性が高いです。
病態と発症メカニズム
CLLでは、Bリンパ球がアポトーシス(細胞の自然死)を回避し、ゆっくりと増殖を続けることが病態の中核です。
正常のリンパ球であれば一定期間で寿命を迎えるところが、何らかの変異により長生きしてしまう異常細胞が増えていくことで、リンパ節や脾臓、骨髄などに蓄積します。
さらに、免疫システムの攪乱も起こりやすいため、自己免疫性の溶血性貧血や血小板減少症を併発することもあります。
進行を促す要因と予防策
CLLの進行を促す要因としては、ウイルス感染や慢性的な免疫刺激などが仮説として考えられています。
予防策としては、明確なものが確立されていませんが、健康的な生活習慣の維持が重要です。また、定期的な検診や血液検査により早期発見・早期治療につなげることが、結果的に予後改善に寄与する可能性があります。
慢性リンパ性白血病と日本人の関連
日本人における発生率と特徴
日本人を含むアジア人ではCLLの発症頻度は欧米に比べて格段に低いとされています。欧米では白血病の中で最も多いタイプの一つですが、日本では年間の新規発症数が非常に限られます。そのため、日本人に特有の特徴としては、
・発症年齢が高い(70代前後が中心)
・欧米に比べてCLLの治療に関するエビデンスが少ない
という点が挙げられます。ただし、高齢化が進む現代社会では患者さんの絶対数が増える可能性もあり、さらなる研究やデータの蓄積が重要です。
小児や高齢者での発症例の特徴
CLLは一般的に高齢者に多い疾患ですが、まれに小児や若年成人での発症も報告されています。しかし、稀有なケースであり、通常は「小児白血病」と呼ばれる場合に多いのは急性リンパ性白血病(ALL)であって、CLLではありません。
高齢者では、合併症が多く、生活の質(QOL)や治療による副作用への配慮が重要になります。治療選択においても、副作用のリスク・効果と生活の質を総合的に考える必要があります。
慢性リンパ性白血病の患者支援と生活
生活の質を向上させるための工夫
CLLの患者さんは、無症状の期間や治療が必要な期間など、病状の変化に応じた生活調整を行うことが重要です。生活の質を維持・向上させるために、以下のポイントが挙げられます。
身体的活動と休養のバランス
過度な運動は避けつつも、適度な運動習慣は体力維持や気分転換に効果的です。
感染症対策
人混みを避ける、マスクを着用するなど、免疫力が低下している可能性を考慮した日常の工夫が求められます。
情報収集とコミュニケーション
主治医や看護師とのコミュニケーションを密にし、疑問点や不安を随時相談することが大切です。最新の治療情報やサポート体制を常に把握しておくと安心です。
慢性リンパ性白血病患者の社会活動と支援団体
CLLの患者さんの中には、治療を受けながら通常の仕事や社会活動を継続している方も多くいらっしゃいます。
特に無症状の段階や症状が安定している場合には、職場に適切に理解を得ることで仕事を続けられるケースがあります。
日本でも白血病やリンパ腫などの血液がんに特化した支援団体が存在し、情報提供やイベントの開催、患者同士の交流をサポートしています。
まとめ
本記事では、慢性リンパ性白血病(CLL)について、症状から診断、治療法、患者さんへのサポート体制に至るまでを幅広く解説しました。CLLは、比較的進行が緩やかである一方、治療が必要になる場合には適切なタイミングでの介入が求められます。また、患者さんのQOLや経済的・心理的なサポートも重要であるため、医療チームや支援団体と連携しながら治療と生活を両立させていくことが大切です。
本記事が、CLLの概要を理解し、今後の情報収集や診療方針の検討に役立つことを願っています。もしご自身やご家族がCLLと診断された場合、主治医や専門医と十分に相談し、最適な治療法を選択してください。サポートが必要な際は、患者会や専門の相談窓口の利用も検討してみてください。
参考文献・論文
National Cancer Institute: Chronic Lymphocytic Leukemia Treatment (PDQ®)–Patient Version
https://www.cancer.gov/types/leukemia/patient/cll-treatment-pdq
Byrd JC, Furman RR, Coutre SE, et al. “Targeting BTK with Ibrutinib in Relapsed Chronic Lymphocytic Leukemia.” N Engl J Med 2013; 369:32-42.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1215637